2021.11.2

医療法人化のメリット・デメリットについて

医院経営コンサルティング②


 個人開業医の院長から「法人化」のメリット・デメリットをよく尋ねられます。
 一般的なメリット・デメリットも検討材料として必要であるためお客様毎に提示させていただきますが、弊社では「法人化する目的」を明確にすることを大切にしております。まずは院長が思い描く医院の将来ビジョン・イメージをヒアリングさせていただいた上で、「法人化」することで総合的にメリットがあるかどうかご提示し判断していただいております。
「開業5年を超えて売り上げも安定してきたので法人化を検討すべきかと思い、税理士に相談したところ『どちらでも良いですよ』と言われ悩んでいます。節税や退職金などメリットも聞くのですが、よくわかりません。法人化の検討方法について教えてください。」
 このように法人化について顧問税理士さんにご相談されても曖昧な回答しか返ってこず、モヤモヤされた先生も多数いらっしゃるのではないでしょうか。
 私のコンサルティング経験上、法人化は以下の3つの条件が揃えば早々にされるべきだとお伝えしております。


➀個人の所得税率が40%を超えている場合
 毎年1月~12月までの売上から必要経費を差し引いた分が院長の所得になります。その所得から基礎控除、社会保険料、保険料控除など個人で出せる経費を差し引いた金額が課税所得金額になります。この課税所得額が1,800万円を超えた部分から所得税の税率が40%、4,000万円を超えると45%になりますので、今年は売り上げが良かったのに思ったほど手取りが少ないと感じた方もおられるのではないでしょうか。
 仮に4,000万円の課税所得の場合1,800万円~4,000万円の2,200万円に対して40%課税されますので、そこだけの所得税だけで880万円課税される計算になります。

累進課税の課題

 医療法人は院長の給料(役員報酬)を毎年決めることが出来ます。例えば2,400万円の年収だった個人医院の院長が法人化し、月100万円(年収1,200万円)に設定したとします。個人医院時代と法人化後の売上と経費が同じだとすると、法人の利益は1,200万円になります。極端な話ですが、この利益分をご自身の退職金の積立などで経費を1,200万円使ったとしたら、法人税は0になります。結果として納める税金の合計は法人税を含めても大幅に軽減されます。
 また個人医院のよくあるケースとして奥様の給料が極端に少なく、院長の所得が高すぎるという申告書を目にします。奥様は家事の合間に経理や雑用をこなされていますが、医院にほとんどいないからという理由で月10万円~20万円ほどの給与設定にされています。事務のパートさんと同じぐらいの額でしょうか。奥様の給料を上げることで世帯収入は変わらず納税額は下がりますが、なかなか上げにくいというお声も聞きます。
 法人化することで奥様の肩書は医療法人の理事になり、役員報酬を上げることのハードルが下がります。税理士さんに相談しても個人医院の専従者給与を960万円(月額80万円)にすることには反対されますが、同額の医療法人の理事の役員報酬であればすんなり認めてくれるケースがほとんどです。法人化による上手な所得分散で納税額を減らすことが出来ます。


②新居購入や学資など比較的大きなお金が必要でない、もしくは準備が出来ている場合
 法人化すると前述したように利益の一部を法人保険などで将来の退職金へ転換できますが、その分個人の手取り収入は減ります。手取りが減ることで家計を圧迫し、近い将来に計画していた住宅購入やお子様の学資などに影響がでるのであれば法人化は先送りにされたほうがいいでしょう。
 法人化を考えられる場合、私たちはライフプラン作成をお勧めします。個人経営のパターンと法人化した場合のシミュレーションを比較していただくと一目瞭然です。両者ともライフイベントで使う予定のお金(支出)は変わりませんが、法人化のシミュレーションは役員報酬を調整することで収支を確認することが出来ます。節税効果もあり、将来的な家計に影響がなければ法人化を検討されたほうが賢明です。


③将来親族や第三者(勤務医など)が医院を承継する予定、もしくは後継者候補がいる場合
 地域医療のためリタイアされても医院を残したいというお考えで後継者候補が存在する医院であれば法人化をお勧めします。ざっくりとですが個人医院のままであれば承継の手続きが「煩雑」ですが、医療法人であれば「理事長の交代のみ」で済みます。
 法人化を考えている顧客で、ご子息が医学部や歯学部に合格されたタイミングで法人化されるケースが一番多いようです。最近は身内に後継者がいなくても信頼できる勤務医への第三者承継も増えてきています。

家族の風景

 上記3つの条件が揃えば、法人化は個人医院のままよりもメリットは充分享受できます。他に求人でも医療法人という呼称は有利に働きます。また経理でも法人と個人の通帳が分かれますので計算が楽になったというお声も聞きます。顧問料や決算書作成費用など必要経費は個人経営よりも増え、年に1度所轄の都道府県知事に業務報告義務がありますが、トータル的に使えるお金と残るお金は増えていきます。

 経済が予測不能な昨今で、事業資金に余裕を持たせることは経営者の必須課題となっています。➀②③のいずれか一つでもあてはまる個人医院であれば、一度医療法人化を検討されてみてはいかがでしょうか。

 メリット・デメリット以外にも法人化の目的が重要です。将来のビジョン・イメージを実現する一つの手段として、しっかりとしたヒアリングとシミュレーションで法人化についてご提案をさせていただきます。

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